【完】切ないよ、仇野君
答えにならない答えに、歩君はゆっくりと首をうなだれた。


気付いてあげられるのに、私には次に必要な言葉をかけてあげることが出来ない。


それが悔しくて、ぎゅっと下唇を噛みしめていると、後ろからふいに、ふわりと白いタオルが舞った。


「ちーは凄かろ?うちの自慢のマネジやけん」


そのタオルは歩君のブロンドヘアーにスローモーションでかぶさり、そのスローモーションに更にたたみかけるようなゆったりした声が重なる。


「泰ちゃん!」


「ゴメン、立ち聞きするつもりや無かったっちゃけどねぇ……」


いつも通り穏やかな笑顔の泰ちゃんは、試合中に見せた鋭い表情は見る影もなく、とても柔らかな雰囲気だ。


泰ちゃんはそっと歩君に近付いて、タオルの上からその小さな頭を撫でる。


「今ん歩に勝ったっちゃ何も嬉しくなか……やけんが、早よ治せ」


「……っ!言われんだっちゃ、全快して、インハイでは負かしちゃるけん待っとらんね!」


この夏は、どうしてか甘酸っぱくて、弾け飛わんでしまいそうにキラキラしている。


インターハイ本番、今で泣きそうな私は、一体どうなってしまうんだろう。
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