【完】女優橘遥の憂鬱
 俺は許さない。
海翔君を許さない。

なんで彼女と二人で来たんだ。
俺はあの日、初めて海翔君のバイクに乗せてもらった。


あの時、ヘルメットの紐がキュウキュウで苦しかったのを覚えている。

まさか……

その前に被ったのが彼女だったなんて。


海翔君……奥さん以外の女性を後部座席に乗せちゃいけないだろ?


しかも……
翌日には俺が来ることが解っていて……

あ、だからか?
又海翔君流のサプライズか?


海翔君にしてみたら、俺を喜ばすつもりだったのかも知れないけどね。


俺達はまだ挙式前なんだよ。
目の前にあんな凄い御馳走をぶる下げられて……

それでも我慢しなくちゃならない男の気持ち、判んないのか!?

俺は必死で耐えて、必死で抑え込んだ。

欲望と言う名のを、俺の恋心を。




 彼女は自分から頼んだなんて嘘まで付いてる。

其処まで言わせて、サプライズする必要なんかないんじゃないのかな?


俺、見てられなかった。
海翔君を必死に庇う彼女を……


あぁ、嫉妬だよ。ジェラシーだよ。


何時間も、あのバイクでくっ付いてきたんだよね。
背中と胸を密着させて走らせていたんだよね。

そう思うだけで、イライラする。メラメラする。




 海翔君……
俺って最低かな?


本当は俺、解っているんだ。
彼女が苦しいこと……

独りぼっちが辛いこと。


確かに社長の娘だってことになってる。
でも彼女は……


あっ、又言いそうだ。

やっぱ、俺って優柔不断だなぁ。


彼女が居心地悪いって知ってて、彼処へ置き去りにして来たくせに……




 だけど……
俺は許さない。
監督を許さない。


彼女を自分の娘じゃないかと疑っていながら……、なんで彼女を傷付けたんだ。


あの日。

彼女がヴァージンだと知っていながら、何故AV俳優陣に奪わせたんだ。
しかも……
監督自身までも……

昔愛した人にそっくりな彼女を……




 俺が彼女の許嫁だと解っていながら、なんで目の前で巨根の奴に遣らせたんだ。

苦痛に喘ぐ彼女の姿を見せ付けたんだ。

その上、その映像を俺に撮影させた。


俺が監督の恋人のヌードモデルの彼女と同棲していたからか?

彼女が俺を愛したって知ったからか?

それだけの理由で彼女を……

彼女を犯してもいいのか?


彼女は苦しんでいた。
物凄くもがいていた。


俺のが滲みるほど、彼奴等に痛め付けられていた。



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