【完】女優橘遥の憂鬱
 「其処まで調べたのか?」
父は驚きの声を上げた。


「だとしたら……」


「きっと俺は奴等にハメタんだな。だからもっと美味しい汁を吸いたくて、AV続行を要求してきた訳か?」


「つまり、私は本当に売春はしていないのね?」


「だから、頼みがある。告訴は取り消さないでくれ。俺はあのプロダクションの事態を裁判で明らかにするつもりだ。俺達父娘を地獄に突き落としたアイツ等にも責任の一端はあるんだから」


「責任の一端ではなくて、初めから嵌められた感が否めないのですが……」


「でも二十年以上も前の出来事だ。もっとも、それで脅されたのはあの撮影の少し前だったけどな」


「民事で時効は二十年だと聞きましたが……」


「それでも訴えるってことか? いや、俺もそれを考えた。でも二十年も前のことを覚えている人がいるだろうか?」


「豚の寄生虫の犠牲者の方の救済も考えてください。あの人は、会社の役員でも何でもなかったそうです。ただの社員で、保険金目的で現地に送り込まれたらしいです。その証拠に、保険金は全て会社に入ったようです。奥様に確認済みですから間違いありません」


「えっ、そうなのか!?」


「橘遥さんとの撮影で、素人に俳優をさせていた人達だよ。頭の中はお金のことばっかりじゃなかったのじゃないのかな?」


「奴はあの前に、別の取材で戦地に行かされたようだ。其処で死ぬかと思ったそうだ」


「だから今度は、生の豚肉でジワジワと殺そうとしたのですか? 豚肉には有鉤条虫と言う寄生虫がいて、脳に入り込ませたとか聞きましたが?」


「違う。今、思い出した。生の豚肉ではなく、生き血だった」


「生き血!?」

その場にいた全員が一斉に言った。




 「俺達は騙されていたんだ。其処の儀式だとか言われて、何度も血を飲まされたんだ。それがきっと豚だったのだろう」


「そう言えば確か中国に豚の生き血が好きな人がいて……確か脳に沢山入り込んだと聞いたことがあります」

海翔さんは、ネットで有鉤条虫を調べたそうだ。




 「監督の映像を勝手に使用して番組に穴を開けたのも、被害者を装ったのも……」


「そうか。全部あのプロダクションの企みだったってことか?」


「証拠は何一つありませんが……」


「イヤ、証拠ならある。すまんが考えさせてくれ」

父はそう言って、席を立った。




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