【完】女優橘遥の憂鬱
 「でも、私は監督の事務所で働かされていたけど?」


「君の場合、時効成立を待っていたのかな?」


「強姦罪の時効は七年だからな。きっとハロウィンの悪魔の時はそのプロダクションに変わっていたのかも知れないな」


「もしかしたら、みさとさんもソイツ等の餌食になっていたかも知れない。海翔さんありがとう。貴方はやはり命の恩人だわ」


「すまない。俺、何も知らなかった」


「貴方が謝ることではないわ。きっと水面下で、表には出て来ないプロダクションだったのよ」


「そうかも知れないわね。きっと最初はモデルとして雇う気だっのよ」

社長はそう言ってくれたけれど、私にはそれがカモフラージュに思えてならなかった。


だって父は、CMのオーディションの時に私のAV撮影の打診を受けていたのだから……


(初めから私や、事務所を騙す気だったに違いない。私があの時、ヴァージンだなんて言ってしまったから……)

私は自分の愚かな行為が、騒動の発端ではないかと思いだしてた。




 『だから、頼みがある。告訴は取り消さないでくれ。俺はあのプロダクションの事態を裁判で明らかにするつもりだ。俺達父娘を地獄に突き落としたアイツ等にも責任の一端はあるんだから』

父はああ言っていた。
だけど……だけど……


「この裁判、負けるかも知れないね」

私は遂に言ってはならないことを言っていた。


「何を言い出すんだ。もう今更後戻りは出来ないんだよ」


「やはり、告訴を取り消した方が……」


「もしかしたらこの事務所のこと考えている?」

社長の言葉に素直に頷いた。


「心配しないで」

社長は私のオデコに自分のオデコを付けてから抱き締めてくれた。


「あの時貴女を守れなかった。今度は絶対に守り抜く。貴女は薔薇の花だった。だけど泥沼で咲く蓮に変えてしまったのは私だから……」

社長の優しさが私の心を満たしてくれた。

私はその場に踞って号泣した。




 あのグラビア撮影は、そのプロダクションの仕事初めだったのだ。

現役の女子大生と生で遣らせる。
そう言ってAV俳優達を喜ばせ、前技無しでいきなりバックから捩じ込ませる。


私の苦痛に喘ぐ姿を想像し、絶対に金になると踏んだのだ。

だから別の書類に紛れ込ませ、後で抗議されないようにしたのだ。


だからタイトルが、橘遥処女を売る。だったのだ。


それは私が自らその道に入ったように見せ掛けるためだったのだ。



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