【完】女優橘遥の憂鬱
 日付が変わる頃に私達は田舎の駅にいた。


「又、この時間か」


「又って?」


「みさとを追い掛けた日も、みさとと美魔女社長に事務所を訪ねた時もこの時間だったんだ」


「あっ、それって俺と始めて遭った時か?」


「ああ、そうだよ」


「こんなに遅くじや、みさとさんのお母さんきっとビックリしたんじゃない?」


「だから、みさとファミレスで時間潰したんだ」


「もしかしたら、この前行ったとこ?」


「ねえ、其処に私達も行ったみない」


「あ、それだったら一つ前の駅の方が近かったな」

海翔さんはそう言いながらもタクシー乗り場に向かった。


「取り敢えずまずは家に行ってみさとも誘おうか?」

私はつい、嬉しくなって頷いた。




 ファミレスでトイレに行った時、いきなり腕を捕まれ個室に引きずり込まれた。


「橘遥さん。俺達と良いことしよう」

ソイツはそう言った。
もう一人は顔見知りだった。
あのハロウィンの悪夢の時のカメラマンだった。


「まだこんな仕事していたの?」

私の一言にキレたのか、二人は備え付けてあるベビーチェアーに私の体を押し付けた。


あの日の恐怖がよみがえり、私の体は硬直した。


「社長がこの近くに居るからと言ったから来たけど、まさか此処で会えるなんて思わなかった。生で遣っていいんだろ?」

ソイツはそう言った。
でも何時までも遣られ放題じゃない。
狭い個室で身動きとれないけど、振り向き様にソイツの急所を蹴りあげた。




 男達は婦女暴行未遂の現行犯で逮捕された。


二人は警察の取り調べで、『橘遥が近所にいるから見つけて遣って来い』とプロダクションの社長が命令したからだと白状したようだ。


もう橘遥ではない私の事情に配慮して、被害者は一般女性としてくれた。


もし素性がバレたら、興味本意の野次馬が集まる可能性があったからだった。


県警は、高額納税者の父に配慮してくれたのだ。
私は自動車会社の役員として名前を連ねていたのだった。
社長の娘として……


愛の鐘プロジェクトはあの一角だけではなく、県をも巻き込む町お越し行事にもなっていたのだった。




 翌日、そのプロダクションの社長は逮捕された。


監督が逮捕されたので先手を打ったようだ。


でも結局……
それが墓穴を掘ってしまったのだった。


私は又静かな日常を取り戻したのだった。




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