【完】女優橘遥の憂鬱
 「俺は何も聞かされていなかった。本当に何も聞かされていなかったんだ。俺はただ……、監督の指示通りにカメラを回しただけだった」

彼は私との出逢いを語り出した。
私の親友でもある美魔女社長も傍にいて聞いてた。

本当は聞かせたくない。
でも私の空白の八年間は彼に守られてきたのだ。
その事実だけは解って欲しかったのだ。


「グラビア撮影だけではないこと聞かされたなは、椅子にいきなり束縛された時だった。監督に『面白いものを見せてやる』って言われたんだ。『それって何ですか?』って聞いたら『いいか。これから彼女は苦痛に喘ぐ演技をする。お前さんはただその顔を撮影すれば良いんだよ。報道カメラマンになりたいんだってね。悪いようにはしないよ』監督は確かにそう言ったんだ」


「報道カメラマンが夢だったんだ。監督のせいでとんだ道歩かされたね」


「あら、でも監督って、確か報道関係者じゃなかったっけ?」

二人の言葉に頷く彼。


「もしかしたら貴方も騙されていた訳?」

それにも頷いた。


「腕を拘束して無理矢理背後から捻り込ませた時、貴女は『ヒーー!!』 って悲鳴を上げた。初めは驚いて、監督を見たんだ。でも、撮影は続行されたんだ」


「その監督は何故其処まで?」


「監督にも借金があって、AVでも撮って来いって脅されていたようです」


「えっ、それで……。そんなことで彼女の八年間は奪われたの?」

社長は本当はまだあの監督のことを良く理解していなかったようだ。




 「アルバイトだったけど、カメラマンとして初めて雇われた俺は夢中になって撮影していた。彼女の歪んだ表情や、歯を食い縛る仕草を演技だと信じていたからだ。あの時は苦痛に喘ぐ貴女の姿を女優魂だと思っていたんだ」


「AVの現場はやらせも多いって聞くからね」

社長のその言葉にドキンとした。私も素人相手にやらされていたからだった。




 「彼女がヴァージンだと知った時、通りで彼女が痛がるはずだ。と思ったんだ。でも俺は監督の言葉に反応して貴女を犯していた」


「でもね社長。それがあったから私は生きて来られたの。気が付いたら、私は彼を愛してた。苦しくて苦しくて仕方がなかったけど……」

私は彼への愛を、社長に告白していた。


「でも、良かったね。両思いで……」
それは社長の精一杯の賛辞だった。





< 34 / 123 >

この作品をシェア

pagetop