【完】女優橘遥の憂鬱
 「いっぱい食べれば?」


「そりゃ太りますね。でも甘い物は脳のご馳走です。あまり怖がらずに食べてください。特にアンコは食物繊維がたっぷりだからお腹にもいいです」


「えっ、そうなんですか?」


「そうなんですよ。実は和菓子は優れた低カロリー食品なのです」


「でも、これも沢山食べたらアウトですね」


「どんなに食べたがっているの? でも我慢するのが一番いけないから適度にね。あ、そうそういいカロリー消費作戦があったわ」


「えっ、それ知りたい」


「ウォーキングや有酸素運動の前に首筋を数秒冷やせば、消費体脂肪率が上がるそうです。是非試してみてくださいね。やる場所はスーパーなんて、どう?」


「講師、何でスーパーなんですか?」


「スーパーにはお持ち帰り用の氷があるでしょう? あれを一ついただいて首筋に当ててからお買い物です。それもついでに隈無く歩いてみれば消費カロリーもグーンとアップするはずです。やってみてくださいね」


「はーい。やってみます」


「それでは本日の講義は此処までです。長い間御苦労でした」

私は大役を何とか果たしホッとしていた。


「そうそう、スーパーは出来るだけ知らない所に行きましょう」


「えっ、何故?」

皆がざわつき始めた。


「スーパーって、まぁ当たり前なのですが……、一軒一軒が違う作りに商品配列も違うでしょ? 聞いた話によるとあれが頭に良いらしいです」

私は少し得意になっていた。


「冒険でワクワクするからかな?」


「何事も好奇心で挑戦すれば脳も活性化するようです。何処に何があるか解らないから、探すのが大変ですが、消費カロリーも増えますから試してみてくださいね」


「はーい。絶対にやってみます」

生徒達はイキイキしていた。

私はそんな姿を見て、又モデルに戻れたことが嬉しくて仕方無くなっていた。


「それでは、本日の抗議は此処までです。次回も此処で、ミュールと下駄の歩き方です。手持ちがありましたお持ちください」


それは私がこの事務所へやってきてから体験した、モデル以外の初仕事だった。

後輩を育てることも大切なカテゴリーだったのだ。


でも何故だかざわついているようだった。

その原因は外にあって、誰かが私の講義の様子を伺っていたのだ。

突入して来るまで誰だか気付かなかったけど……




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