【完】女優橘遥の憂鬱
 それは私が、人生を諦めて適当な生活を送ってきたからだ。

だから考えもしないで、その場しのぎの言葉を連発してきたのだ。

その場は逃れても、それが後々付いて回ることに気付かなかったからだ。


だから大事な人が傷付いてしまうのだ。


彼だって、本当なら一流の報道カメラマンになっていたかも知れないのに、私と関わったばかりにこんな苦労を背負込む羽目になったのだ。




 彼女の心をもう二度と苦しめたくない。

全て私のせいだった。
東口前で間違えられてのも、過呼吸症候群を発症させたのも。

それを全部監督達のせいにしてきた。


私は自分の仕出かした罪を回りの人に押し付けただけだったのだ。




 彼女は今目隠しされて、恐怖と戦っている。
その勇気に拍手を送りたい。

全てが自分のせいだと思い込んでいる海翔さんと、新宿駅東口前で待ち合わせたお兄さんのためなんだと思う。


偶々近くに居たと言うだけで、AV俳優陣達に拉致された彼女。


『ありがとうございました』

彼女が助かった時、私は頭を下げた。


『彼女に何かあったら……、私今度こそ生きては行けなかった』

もっともらしい言葉を吐きながら私はその場で泣き崩れた。

あれも結局、自分を守っただけのような気がする。


『貴女が悪い訳ではない。きっと、同じことをされたはずだ。でも、何故なんだ? 見れば判ると思うけど、ヘアースタイルが違うじゃないか?』

そう言われた時、助かったと思った。
だから私はあんなことを言ったんだ。


『あの時と……同じ……だった』

それは……
彼女のお兄さんには判るはずだと思ったのかも知れない。


私はこともあろうに、も彼女同様にしゃくり上げ泣き始めた。


『あの時と同じって……、もしかしたら?』


新宿駅東口前から私走った彼女のお兄さんが何かに気付いたのか、私の背中に手を置いた。


『もしかしたらお前のそのウィッグ俺のためか?』

その質問に驚いて、私が彼女を見ると頷いていた。


『そうか……あの時と同じだったな』

彼には解ったようだ。

私がどのようにしてこの業界に入って来たのかが……


『悪いのは貴女じゃない。コイツラだ。先ほどは失礼な発言をして……』

彼も泣き出した。


『気にしないでください。私は大丈夫ですから』

私は又、卑怯な言葉を口にしていたのだ。



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