【完】女優橘遥の憂鬱
 『仕事が一段落着いたら、両親に会ってくれないか? 確かめたいことがあるんだ』

あの日。
彼は突然言い出した。


『何を?』


『行ってみないと解らないんだ。母なら何かが判る気がする』

私は首を傾げていた。


『俺の恋人……じゃあない、結婚を前提で付き合っていることを打ち明けに行くんだ』



『一段落何て言わないですぐに向かったら?』」


『その前にやることがあるんだ。それが済んだら一緒に行ってほしいんだ』

彼はそう言った。

それが今目の前で起きていることだったのだ。




 海翔さんと打ち合わせしていた彼が帰って来た。
やはり、監督を訴えることに決まったそうだ。


告訴は誰にでも出来る権利だそうだ。

取り合えず、詐欺罪で訴えることに決まったのだ。


本当に詐欺罪が、騙されている案件が終了時点ならいいのだが……




 この後海翔さんはみさとさんにサプライズを仕掛けるそうだ。

それが何なのか解らない。
でも海翔さんのことだ。
きっとみさとさんは嬉し涙を流すだろう。

目隠しされたままで、海翔さんに甘えるみさとさんが意地らしい。


「さあ、俺達も楽しもう」
彼がそっと囁いた。




 それでも私達は戸惑った。

身体を合わせてしまえば済む訳ではない。
彼との愛が成就される訳でもないのだ。


目の前に彼がいるのに、私を求めているのに躊躇する。


「やはり待とう」

私はそう切り出した。


「貴方のご両親が結婚を許してくれたら……、ううん、本当に結婚出来たらその時に……私だってみさとさんみたいに貴方に甘えたい。でも……」


何人もの男性との性行為を体験させられてきた私だから、彼との行為は大切にしたかったのだ。

もし……
いや、絶対に……
ご両親は反対すると思っていた。

大好きな彼だから……
大好きな彼だからこそ、ダメージを与えたくなかった。

もう既に彼には一度犯されてはいるけれど。




 彼は渋々納得してくれた。


「これから、暫くは事務所の裏方の仕事に専念しよう。貴女が後悔しないように」


「うん。なるべく顔を見せたくないんだ。でも、出来る限り残しておきたい」


「そう言うと思ってカメラ持ってきた。これが貴女の最後のモデルとしての仕事だ。俺の前で。その実力を見せ付けてくれ」
彼はそういいながらカメラを構えた。



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