【完】女優橘遥の憂鬱
真実?・本当の父
 私達は駅中で弁当を買ってから電車で東京を目指すことになった。

彼は見慣れない切符を手にしていた。


「それ、なあに?」


「来る時も使ったよ。これが例の青春十八切符だよ」


「あっ、海翔さんとみさとさんが良く使うと言ったヤツ? へー、初めて見た」


「五回分あるんだ。快速も使えるから便利なんだって」


「ごめんなさい。来る時緊張していて……、良く覚えてない」
そう……
いくら彼が心配要らないと言っても、ご両親に会いに行くのが怖かったのだ。


「特別快速なんだこれ。帰りも使えて良かったよ」


特別快速と聞き辺りを見渡して青ざめた。


ボックスシートの車内では周囲が見難い。

私を橘遥だと気付く人もいるかも知れない。
途端にそう思った。
自意識過剰かも知れないけど、楽しいはずの彼の隣が怖くなった。




 私はなるべく発言を控えようと思っていた。


「インターネットで調べたんだ。未成年者保護法が使えないかと思ってさ。でも、十八歳以上は対象外らしい。悔しくてね。でもそれ以上に、俺は俺を許せないんだ」


「あの八年間かい?」


「うん」

彼は項垂れた。


「監督の仕組んだバースデイプレゼンショー当日は本当の誕生日ではなかった。貴女はまだ未成年で……」

彼の言葉を止めるようにと、私は手をそっと伸ばした。


「ごめんなさい。誰が聞いているか解らないから」

私の発言にハッとして、彼は押し黙ってしまった。




 「じゃあ私が……」

母親は写真立てをバックから出して、懐かしそうに撫でた後で、それを取り出した。


「貴女のお母様とは幼稚園の時からずっと一緒で親友だったの。久し振りに会ったのが、あの産婦人科だった。彼女は恋人が自動車会社の社長の息子だと知らなかったんだって。プロポーズされた時初めて打ち明けられたそうよ」


「まるで映画みたい」
私は母親の持っている写真にそっと手を添えた。

目が霞み、頬を涙が伝わっていくのが判る。
写真の母は笑っていた。

彼の母親と肩を並べて笑っていた。


「これを見て」
そう言いながら裏を見せた。


「許嫁記念日? 」


「貴女のお父様が書いてくださったの。二人を忘れないでくれって言うメッセージかも知れないと思ったの。遺留品のカメラ中にあったそうよ。私達は事故のあの日に、高速バスに乗る前に主人に頼んで撮影したの」



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