【完】女優橘遥の憂鬱
 「あっ、そうだちょっと待って、今写真持って来る」
母親はそう言いながら部屋を出て、すぐに写真立てを持って来た。


「あぁ、やっぱり間違いない」

母親の目が滲んだかと思うと、大粒の涙が頬を伝わった。

私は慌ててその写真に目を移した。


其処には、私が居た。
私に良く似た人に抱かれた私が居た。


「貴女のお母様よ。出産で里帰りして、帰りの高速バスで事故に合い亡くなられたの。貴方はその時行方不明なった……」


「生まれ日が違うんだ。きっと、二十歳のバースデイプレゼンショーの時は、貴女はまだ二十歳になっていなかったんだ」


「えっ!?」


「俺の許嫁だった社長の娘は、俺と誕生日が一緒だったんだ。十二月二十三日。あの時はまだ昭和だったから何もなかったけど、今では天皇誕生日になったんだ。貴女の二十歳のバースデイプレゼンショーの時、俺はまだ十九歳だったんだ。だから気付かなかったんだ。やはり貴女は育児放棄された訳ではなかった。生後九ヶ月の子供が、六ヶ月位しかなかったから逮捕されたんだ。その時貴女はお腹は空かせていたことはいたが、本当はまだ六ヶ月の子供だったんだ」


「嘘……、嘘……」
私はまだ彼の言葉が信じられずに戸惑っていた。




 「やはり貴女は……」

さっき笑ったかと思ったら、今度は泣き出した彼。


「嬉しい。やっと夢が叶った」
そう言って、手で顔を覆った。


「う、うっ……」
私は泣いていた。
そんな優しい彼を見て、堪え切れずに泣いていた。

後から後から涙が溢れてくる。
でもそうさせたのは、彼が優しいからだ。常に私を大切に思ってくれていたからなのだ。


まだその社長が、私の本当の親だと決まって訳でもないに、感極まって泣いていた。


遂にそれは号泣へと変わっていき、辺り構わず泣き叫んでいた。




 「何してるの? さあ早く行きましょう」

母親は立ち上がるが早いか上着を出した。


「此処はこのままでいいから、すぐに行って来い」

そう言うが早いか、父親は車の準備を始めた。


「あ、待って。ホラ早くそのパンツ……」


「大丈夫よ。ねえ、そうでしょう?」
母親がウィンクすると、彼は照れくさそうに俯いた。


「貴女を笑わすための芝居なのよ。ねえ、そうでしょう?」

母親はそう言いながら、優しそうな眼差しで彼を見つめていた。




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