【完】女優橘遥の憂鬱
 俺達は早速バイクに二人乗りをして、その現場に向かおうとした。

でもヘルメットの紐が短すぎて、頭にすっぽり入らないし、首も痛くてたまらなかった。




「みさとさんって顔小さいんですね」

俺はそのヘルメットがみさとさんのだと思っていたのだ。


「紐は調整してくれ。うん、そう言われてみれば小さな方かも知れないな」


あのハロウィンの悪夢撮影の日に、みさとさんを自分のマンションまで乗せた海翔君。


あの日、彼女は二人を兄妹だと思ったと聞いた。

それが今や夫婦だ。

その経緯は聞くも涙。
語るも涙ではなかっただろうか?


俺は根掘り葉堀り聞いてやろうと思っていた。




 海翔君は俺を後部座席に乗せて快適に走っていた。

でも着いたのは以外な場所だった。


「まずは腹ごしらえだろう?」

そう……
それは隣町にあると言うファミレスだった。




 「実は昼飯まだだったんだ。それに此処なら打ち合わせも出来るしね」

俺は海翔君は行為が嬉しかったんだ。


それにしても海翔君は凄い奴だと思った。

俺と同じチェリーボーイでありながら、みさとさんのためにそれを守り切った訳なのだから。
俺は、ヌードモデルの彼女の言いなりになってそれをくれてやってたのだ。

雲泥の差だと自覚し反省した。
今更遅いとは思うけど……




 まず花の調達からだった。
海翔君の作った小さなハート形の花壇の回りに大きな花壇を作る。
其処に咲かせるのは花屋に並んでいるありきたりの花ではない。

最も身近な植物。
海翔君がみさとさんの好きな菫で飾ったように、俺も彼女の好きな諸葛菜で飾ろうと思っていた。


諸葛孔明が戦の前に全国行脚して蒔いたとされるオオアラセイトウとも花大根とも呼ばれる。

早春に咲くカタクリ。
紫色に染まるツルニチニチソウ。
白いスノーフレーク。
黄色と白の蒲公英。
ピンクのレンゲ。
色とりどりの花がすぐ目に浮かんだ。




 その前に、海翔君は何故今回のプロジェクトを思い付いたのかを話し出した。


きっかけは、卒業論文だったそうだ。

本当はみさとさんと結婚した時点で卒業は諦めたようだ。

それでもみさとさんは一生懸命だった。


遂に根負けして……


テーマは日本の未来だった。

TPPによる安価な食料輸入によりもたらせられる様々問題を取り上げていた。




< 77 / 123 >

この作品をシェア

pagetop