Spicy&Sweet
スイートな私

徳永さんはとても忙しい人らしく、会う約束ができたのはひと月後のことだった。

でも、私にとってはちょうどよかった。

彼が欲しがっている“甘いもの”になる準備期間に、そのひと月を充てられたからだ。


「――うん、髪型よし」


出掛ける直前、鏡に自分を映して最終チェックをする。

プールの塩素で色が抜け、パサつき気味だった髪は落ち着いたブラウンに染め、長さも肩上で揃えた。

首を横に振れば、ふわふわと揺れる動きがいい感じ。

メイクは、ちょっと年齢のわりに幼めに、チークやアイシャドウにはパステルカラーを選んだ。

唇の潤いも、ばっちり。

最後の仕上げにと棚の引き出しから取り出したのは、ピンク色のボトルが可愛い買ったばかりのフレグランス。

これは、子供の頃に誰もが大好きだった、甘いお菓子の香りがするんだ。


プシュ、と手首にひと押し。

それから首筋や、耳の後ろに広げる。

最後にシフォン素材の柔らかいスカートを少しだけめくって、太ももの裏側にも香りを忍ばせた。

――これは、私から彼へのメッセージ。

食べたかったら食べてもいいよっていう、密やかな甘いサイン。

どうか彼のお菓子になれますように。

私はそう願ってから、軽やかな足取りで家を出た。


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