◇東雲庵◇2014〜2017◇
さすらいの道の途中で

8月に入りました。
関東の方はここのところ肌寒いくらいの気候だそうです。その涼しさ、東海地方に分けていただきたい。

妹が秋田へ行って来たそうです。おおまがりなまはげきりたんぽ。同じ頃、姉はとある温泉街におりました。(でも仕事←そんなんばっかだな、あんた)出張にまで『四月は君の嘘』を持参しホテルの部屋でひとり読んでいたのは私です。『蜜蜂と遠雷』を発端に、二週に渡ってピアノコンクールのお話を読んでいたので、ピアノ熱が再燃しそうです。バンバン叩く系の曲が弾きたい。そして電子ピアノじゃなくてグランドピアノを。しかし、もう実家に帰ってもグランドは無いので(結婚して家を出るときに、私が嫁入り先へは持っていかないと言い切ったので母が♪もっともーっとタケモットー♪に売り払ってしまった)気軽に弾けなくなってしまいました。例えば学生だったら音楽室に行けばグランドが置いてあるけれども、そうそう身近に勝手に弾けるグランドピアノなんて転がってないのよね。残念。

…失って初めて、アイツの価値に気付いたんだ。
もっと、優しくしてやれば良かった。
(ヒーロー選手権?)



きょうは、仕事のお話。
と言っても、個人情報に繋がるホニャララなのであまり詳しく書けませんが。ジウさんや高山さん、他の皆さんも、エッセイで時折仕事のことを書いていらして、その姿勢が素敵だなーって思っていたので。

私の仕事は、歌を歌うことに似ています。
なので、ここでは「歌い手」と仮定して書きます。実際に歌うわけではありません(笑)。例えばの話。身体を使ってパフォーマンスする仕事なので。ええと、さすらいの歌手みたいなもんだと思ってください。街から街へ。今日も何処かで葵は歌っています。もしかしたら、あなたの街でも。←突然なんの語りだ

脱線すみません。
今、同じ会社のなかではありますが、2種類の仕事を担当しています。会社の中で、または外へ出て歌う仕事です。

内勤の方がキャリアが長くて、名古屋時代から数えるとこれでもう13年目になります。外回りの方も7年目。大御所とは言えませんが、もう中堅なんですよね。
外回りの方はこの四月から新人が入ってきて、固定メンバーが全員私の後輩になってしまいました。いや、良いんだよ。別に私が一番上になるのが嫌とかじゃなくて。
ただ、ここのところ気になるのが、「後輩の歌が、私に似てきた」事なのです。私が自分で「いかんなー」と思っているような歌い方の癖まで、まるっと。昨日、久しぶりに後輩の歌を聴いていたら、まるで自分の歌を(欠点も含め)聴いているような感覚に陥ってしまったので、ちょっと焦りました。「あーそのフレーズあまり使わない方が良いんだけどな…って私がいつも便利に使ってるからか!あああその声の張り方もダメ…って私がいつもやっちゃうからか!」と。冷や汗タラリ。

私は、自分の歌が一番上手いとは思っていません。
仕事を始めた時は、まさに理想とするような歌い手さんが沢山いて、13年経った現在でも自分があの方々のレベルに達しているとは到底思えないのです。
だけど、後輩ちゃん達は主に私の歌を聴いて育っている。会社側も「東雲さんをお手本に」「東雲さんの歌をよく聴いて」と言う。結果、東雲チルドレンが沢山誕生してしまった訳です。私のパフォーマンスが、やり方が、いつの間にかこの会社のスタンダードになってしまった。ヤバイ!責任重大じゃないか。と、ゾッとしました。とりあえず、真似されるに相応しいパフォーマンスをしなくては。でも、それってなんだ。どんなんだ。何処まで頑張っても私は私の域を出ないのに!って悶々とするしかない。まー頑張るけどさ。

私は私の特性を活かして現在のスタイルに落ち着いた訳です。それがそのまま、皆に適当かと言うとそうではないんですよね。身体を使って表現する以上、個人個人に合った歌い方というものがある。性格も違うし。それは、日々模索しながら自分で探していくものだと思います。基礎は教えてあげられるけれど。
とは言え、新人のうちは仕方ない。まずは先輩の真似をするのが上達への近道だから。だけど、その段階を過ぎたら、私みたいに小さくまとまらないで欲しいな、と思います。私の演奏は「絶対的な安心感」が売りなのですが(笑)、壁をぶち壊すような破壊力も無ければ、ハッとするような新鮮な解釈も無いので。失敗しても、多少聴き苦しくてもいいから、若いうちに色々トライして、無茶やって欲しいな。
もう少し時間が経って、新人ちゃんが歌うという仕事に慣れたら、それを伝えてあげようと思います。

100人いたら、100通りの歌がある。

私の仕事は、芸事の世界に似ています。突き詰めたら、終わりがない。正解もない。個性が違うから、誰の真似もしきれない。だから、たまに辛い。だけど、やり甲斐がある。

だから、やめられないのかもしれません。


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