茉莉花の少女
 少しざわつきのある店内に静かな音楽が流れている。

 その音楽に耳を傾けながら窓の外を見ると、多くの人が行きかっている。

 それぞれの人にどこか目的地があるのか、皆足早に歩いていた。

 その背後には車がゆっくりと駆けている。

 ありふれた情景に飽き飽きし、今度は手元のコーヒーに目を向けた。

 中を見通すことのできない液体から漂う香ばしい香り。

 少しだけ今の苛立ちを抑えてくれる気がした。

 また、窓の外に目を向けようとしたときだった。

「ねえ、久司君ってば」

 甘えた耳障りな声が聞こえてきた。
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