茉莉花の少女
 茉莉は「あ」と小さな声を出した。

「忘れていた。ごめんなさい」

「夕方で大丈夫?」

「大丈夫。今日はおにいちゃんもお父さんも帰りが遅いから」

 今日も平日だった。本当は学校を休みたかったが、それは優人さんに注意された。

 僕と茉莉は別々の人生を歩んでいかないといけないからだろう。

 一旦家に帰ったので、時間はもう夕暮れ時だった。

「何がしたい?」

「散歩かな」

 彼女は首をかしげて、そう答えた。

「じゃ、行こうか」

 僕達はそのまま家の外に出た。

 彼女の足が向かったのは昨年の誕生日に一緒に過ごしたあの並木道だった。
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