茉莉花の少女
第29章 誕生日
 十一月二十九日。


 僕の誕生日だった。

 その日、優人さんから電話があった。

「今日、お前の誕生日だろう?」

「茉莉に聞いたんですか?」

 彼の声を聞くのは、茉莉の家に行ったあの日以来だった。

「家に来ないか?」

「でも」

 茉莉に会えばやっと忘れようとしていた気持ちの整理がつかなくなるかもしれない。

 優人さんは僕の心を見透かしたような言葉を続ける。

「茉莉はもう引っ越したよ。秋人の家に住んでいるし、もう籍も近いうちに入れると思う」

 その言葉を聞き、彼女の人生はもうとめることができないのだとわかった。

「分かりました」

 それなのにもう迷うものはないと思えたからだ。
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