茉莉花の少女
 その音楽が携帯の向こうからも聞こえた。

 僕は辺りを見渡す。

 別にこのあたりでしかそんな音楽が流れないわけじゃない。

 まさかという気持ちがそんな行動に走らせていた。

 せわしなく人が歩き続ける歩道に立ちすくむ一人の少女を見つけた。

 彼女の視線はまっすぐ僕を見ていた。

 どこか物憂げで、悲しみを帯びた瞳。

 今すぐにでも涙が零れ落ちてもおかしくないと思った。

 多分、今の自分と同じ瞳をしていた彼女にゆっくりと歩み寄る。
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