羽の音に、ぼくは瞳をふせる

熱にうなされて1-14

< 熱にうなされて >1-14


降りたホームから見た空は
先ほど、車内の窓からみた
その色とは違っていて

重く厚い雲で
覆われていた

改札を出て
病院までの道のりを探す

この前
羽音と訪れた時には
車で来ていた為に
中央道を諏訪ICを抜けると
15分ほどの距離だった

駅の窓口で
奏さんが入院している
諏訪の里までの道のりを聞き
ボストンバックをもう一度・・


肩にかけると再び歩き出す
前に羽音と来た時よりも
電車で来たせいもあるのか
なんだか・・景色は違って見えた


駅員から聞いた道を頼りに
施設までの道をあるく
自分の吐く白い息で目の前が
覆われてしまい・・

それはまるで
自分が羽音に感じるフィルターに
似ている気がした


「 羽音・・ 」


声にすると
きみを思い出す
奏さんとの間にある
兄妹の何かがまだオレには理解が
出来なくて、それでも全て受け入れたいと
願う自分がいる

駅からほぼ15分ほどの場所
湖畔公園を目指し、
諏訪湖を東にすすみ

あとは湖畔沿いに歩けば
施設は見えてくるはず

冬の景色は
人をとても寒くさせ
羽音と楽しげに過ごした時間
手元にあったサンドイッチが
まるで遠い昔のように感じられて

自分は何をしているのか
そんな気持ちにさえなってくる

見えてきた白い建物は
湖が映し出す灰色の雲からの
色をうつし、白く美しかったはずなのに
今は不思議に・・

その色にみえない

施設内に入っても
誰がいるわけでもなく
それでも事務所にだけは挨拶をするべきかと

入口で声を出したが
誰も出てこない
仕方なく

小さな格子の窓ガラスを覗きこむと
メガネをかけた高齢の男性が
何かを一生懸命に読んでいる

ガラスを割らないように
気を使いながらも
何度かコンコンと叩く

でも・・全く聞こえておらず

どこから入るのかと
ドアを探したが・・不思議と見つからない
窓ガラスの側には

小さなリスのぬいぐるみが
首からプレートをかけ

「 おだいじに 」

そう書いてあるだけ
入口・・はどこだ?

すると突然に現れた人影に驚いて
声をあげると
相手も、いない筈の人間に驚き
声をあげた


「 すみません・・驚かせて 」


「 あら、お客さん?珍しい
誰かに会いに来たのかしら? 」


「 ええ・・あの奏さんに 」

「 あぁ・・奏ちゃんね、」

そう言うと
オレと一緒にガラス窓の中の老人を眺め


「 彼はね、鉄道模型を作りだすと
もう・・何も聞こえないわよ 」


そなんだ・・結局
オレは、そのまま以前案内された部屋へと
入ってゆく

けれど、そこには口もとに
酸素マスクをした奏さんが
額に汗をかき横になっていた



つづく













< 14 / 14 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:52

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop