ツンデレな彼と甘キュン社内恋愛
ほんの少し漂う無言に、そっと吹く夜の風。彼の履いている黒いジャージの裾が、足首より大分高い位置で揺れた。
「ご、ごめんね…服の丈、短いよね」
「あー…うん、正直」
これでも家族の中で一番背が高い、お父さんのジャージを貸したのだけれど、それでもやはり彼の足の長さの方が断然長く…骨っぽいその足首が、寒々しく月明かりに照らされる。
「…けど、原さんの家族は明るいね」
「うん、寧ろうるさいくらい。青井くんの家族は?」
「うちはここまでにぎやかじゃないかな。俺一人っ子だし、母親はよく喋る人だけど父親は無口だし…」
よく喋るお母さんと、無口のお父さん…。きっと青井くんに似ているのであろう、無愛想な雰囲気のお父さんが簡単に想像つく。
「じゃあ青井くんはお父さん似だ」
「いや、俺の方がまだ話す方だと思う」
「え!じゃあすごい無口な人だ…」
「…それに俺も専門からずっと一人暮らしだから、何か懐かしい」
ぼそ、と話される普段は聞けない彼のこと。言われてみれば、そう。当たり前と言えば当たり前だけれど、一人暮らしの彼は家に帰っても誰もいなくて。一人で起きて、一人で眠る。
『懐かしい』、その一言から初めて感じるほんの少しの彼の寂しさ。