愛を知らないあなたに
「琥珀様も、行きましょう。」



優しげな声に導かれるように、何も考えずに頷いた。


「あぁ、行こう。」




この生贄は、やはり変だ。


鬼である俺に、なぜこうも微笑を向ける?

優しい声をかける?



まるで・・・

俺に名をつけた女のように・・・・・・・。










――思い出すのは、真っ白な雪が降り積もった世界。


鬼である俺を優しい笑顔で見つめたあの女。



『あのね。生きているモノには名前がなくてはいけないの。

そのモノが、そのモノ自身である為に。

自らを、見失わない為に。

この世にたった一つしかないモノだという印に。』




幼い俺に、視線を合わせて、あの女は言った。



『あなたに名前がないのなら、わたしが付けてあげるわ。


そうね・・・・・・・あなたの瞳は綺麗だから・・・

その瞳の色をとって“琥珀”なんてどうかしら。


うん、いいわね。琥珀に決定!』




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