好きな人のお母様に恋心がバレました

「……っ、部長に報告だけ頼んだよ、栄兵さん」



「へっ！？」



朝霞先輩は持っていた資料をバサバサっと女豹に預けると、女豹は素っ頓狂な声をあげる。



どうしたのだろう、と思う間も無いまま、
もう閉まりそうだったエレベーターの扉をするりと抜けて朝霞先輩はもう用のないはずのエレベーターの中へと再び入ってきた。



扉は、女豹のポカンとした顔を最後に音もなく閉まっていった。



中に残されたのは、私と、先輩。
見上げた彼は、長い前髪の隙間からじっと私を見つめている。



「……一階？」



「………はい」



答えると、先輩は私から視線をそらさずに一階のボタンを押す。



ドキドキと心臓の音がする。
自分のモノであるその音は、どくどくと全身を駆け巡っているからか、身体全部が今は熱い。



どうして朝霞先輩は、私を追うようにしてエレベーターへと再び乗り込んで来たのだろう。
別の階に何か用を思い出したから？
忘れ物でもしたのだろうか？



でも、そしたらどうして………



そんなにもひたすらに私を見つめてくださるのだろう。