繋いだ手を
たぶん新入社員たちは、ここに来るまでは楽しみな気分でいっぱいだったはず。どこか遠くに出掛けるウキウキ感が、談笑する彼らから滲み出ていた。
バスを降りた途端に、不安そうな表情に変わった新入社員を見ているとかわいそうに思えてくる。
私も、去年は同じ気持ちだったから。
「俺たち、あの島に行くんでしょう?」
同情する私を呼び戻したのは坂木君。
対岸に望む島を指差して、私を見下ろしている。
彼の言った通り。
これから私たちが向かうのは、彼の指差した内海に浮かぶ咲島(さきしま)。
フェリーに乗って約五分、外周十キロほどの小さな島には、海と山と数件の民宿があるだけ。その他には、私たちの目指す研修施設。コンビニなんて、あるはずがない。
咲島にある研修施設で一週間、新入社員は朝から晩までみっちりと新人研修を受けることになるのだ。
もちろん、施設から外出することなんて許されない。