ダメ男依存症候群 EXTRA

もしも旬が犬だったら



 あたしは犬を飼っている。


「ただいまー」

 仕事から帰ってきて、玄関を開けると、パタパタと足音が聞こえる。


「ワン」

 一つ吠えると、あたしの目の前にお座りをして、じっとあたしのことを見上げてくる。


「ただいま、シュン」

 あたしは体を屈めて、この犬の首を撫でてやった。

 そうすると、クーンと鼻を鳴らし、気持ち良さそうに目を閉じる。


「お腹空いたね。今ご飯用意するからね」


「ワン!」

 シュンは立ち上がって尻尾をぶんぶんと振った。



 この犬、シュンは、飼い始めて一年になる、オスの雑種犬。


 シュンは元々捨て犬だった。

 雨が降って肌寒い日に、何故かコーポのエントランスの郵便受けの下に、ダンボール箱に入れられていた。


 勿論、最初は飼うつもりなんてなかったけれど、あたしが郵便受けから郵便物を取って、その場を去ろうとした時「キューン」と切ない声で鳴いた。

 そして、さらにとても悲しい目で見つめてくる。


 当時はまだ子犬で、寒さでブルブルと震えていて、あたしはその場から離れなれなくなった。


 でも、あたしは実家に居た時も何か動物を飼ったことなんてなかったし、犬とは言え、命を簡単に扱える自信なんてなかった。


 だけど……目の前で震えているこの命を、見捨てることもし難かった。


 結局、数分の間の見つめ合いにあたしは負けて、自分の部屋に連れて帰っていた。


 あたしの住んでいるところは、ペット禁止というわけではなく、苦情が出ない程度ならいい、という、分かるような分からないような規則。


 とりあえず、一年経つ今までは特に苦情もないから、大丈夫みたい。


< 96 / 129 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop