不条理な恋でも…【完】
私に背を向けたまま膝を抱える。

「ありがとう」

こっちには向かず礼の言葉だけを投げられて、

何についての礼なのかわからない私はこたえないまま、

じっと彼の後姿を見つめた。

「…」

やっぱり私にはもうこの人しかいない。いや、この人でよかったのだ…

もう後悔するより、消えたまま戻ってこないものを

いつまでもいつまでも求め続けるより、目の前のこの人をもっと大切にしよう…

胸に満ちる想いで優しい気持ちになった。


「これ、わざわざ俺の荷物から出して用意してくれたんだよな?」

私の持って行った部屋着の袖を掴み、やっとこっちを向いた。

こんな些細な事だけど、それでも役に立てたんだ。私…

自然と笑みがこぼれる。


「慣れたものがいいんでしょ?短い出張にまでいつも荷物に入れていたから、

今夜もこれがいいのかなと思って…」

荷物を見た時、一緒にいた時と変わらないことに安心した。

これからもこうやって以前の生活に、これからの生活を積み上げていけば、

大希さんとなら夫婦として生きていけると思った。

「ああ…

お前も入ってこい。どこか外で食事でもと最初は思ったりもしたが、

俺もこれを着てしまったから、

今夜はここでルームサービスでもとってゆっくりしよう」


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