青春を取り戻せ!
僕のほうは看守の嫌味にも、同僚の暴力にも耐え、問題を起こさず早く出所するのだという一念で、真面目に勤務していた。
入所して約五年半後、ある事件が起きた。
僕が懲役たちの血と汗と汚物で薄よごれたトイレに行くと、ただならぬ悲鳴と緊迫感が中の空気を震撼(しんかん)していた。
目に飛び込んできたのは、友達の柳沢が、銀光を放つノミを持った男に馬乗りになられ、今まさに、それが彼の頭に振り下ろされようと……。
僕は夢中でそばにあった柄だけのモップを掴むと、男の高頭部に叩き込んだ。
男は地獄に届くようなつぶれた悲鳴を上げると、血を噴き出して倒れた。
柳沢は覆い被さったままの男を退けると、ズボンを払いながら起き上がった。
「サンキュー。ハァーハァーッ…もう少し遅かったらバラされてたよ」
「いったい何事だ?」
「…あいつを助けるためにさ」
柳沢がしゃくった顎の先を見ると、小用の便器にスッポリと収まって、目を丸くしている看守の姿が見えた。
彼は五角形の顔の形と、一度狙いをつけたら徹底的に懲役をいびり倒すしつこい正確からマムシという渾名を持つ看守だった。
彼は蛇が這うようにそこから出て来ると、口に何かを運んだ。
ピィーッ!ピィーッ!
僕はその大きな音に驚き、心臓が一度しゃっくりした。
ピィーッ!ピィーッ!
その音の正体はマムシが吹いている笛だった。