青春を取り戻せ!
ハーフ・タイムのランチの後、僕はコーヒーを一口すすると、トイレに立った。これは予(かね)てからの予定の行動である。

コーナーを曲がった所でゴルフ雑誌を見るふりをしながら、彼らの話を盗み聞きした。

「えっ、白木さん、薬関係のお仕事なさってるんですか?」

と、柳沢が初めて知ったように驚いて聞いた。

「ええ。でもうちは、阿木さんの所と違って、吹けば飛ぶような小さな会社ですから」

白木は柳沢の言葉を待たずに話を続けた。

「先程から伺ってますと、助教授がエイズ治療薬の新薬を開発したように察しますが?」

「あれっ知りませんでした?もう学界誌だけでなく、新聞にも報道されてますよ」

「すいません。なにぶん勉強不足なものですから」

「すいませんと言われても困るんですが、…アッそうだ!?今日ちょうど新聞のコピー持ってきてますから、お見せしましょうか?」

柳沢は用意してきたコピーをポケットの財布の中から取り出した。

白木はそれを受け取ると、食い入るように読みだした。

それは毎朝新聞の記事のように僕が苦労してワープロで作った贋物だった。勿論、日付は除いてある。バックナンバーを調べられると面倒だからである。記事の内容は、城南大学の水島高嗣助教授が画期的なエイズ治療薬を開発。これはプラチナの誘導体でイン・ビトロ(試験管内)の実験では有効率91%を記録した。臨床では症例が少ないので参考程度だが、キャリヤ(エイズウィルス感染者)30名に投薬したところ、発病者は今のところでていない。

……こんな記事だった。
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