青春を取り戻せ!
僕は両肘を強く引っ張られ、やむを得ず、トランクを引き摺った。

心の中では、死とあの屈辱の日々とを秤(はかり)に掛けていた、それはまるで、“to be,or not to be”と想い悩んだハムレットの心境だった。葛藤の末、死の比重が勝った。

次の瞬間、不思議な事に白木夫婦の顔が現れた。憎しみと共に、生への執着が泉のように湧き上がった。
(死んだら、あいつらの思う壷だぞ!)
(苦しくとも、生き続けるんだ)

人々は何も気付かず、前後を行き交った。

群衆の中に、真っ白な犬を連れた、大きな帽子とトンボのようなサングラスの女性が浮き上がった。 

ボンを連れた優紀だった。

逃げろ!と心の中で叫んだ。彼女が共犯だということは割れてないかもしれない。優紀にあんな惨い生活はさせられない。一緒だということがバレたら万事休すだ。

優紀は放心したように佇み、ただ僕を見つめていた。

僕は顎をしゃくって、逃げろ!と合図した。

優紀はただ瞬きをするだけだった。

僕はこの事態をどうやって彼女に理解させ、そして逃がすかに考えを集中させた。

「おかしいな!!」僕は叫んだ。

「うるさい!何がおかしいんだ」

ハンチングは人目を避けるようにして、僕の腹をショート・レンジで殴った。

「ウッ………おかしいな!!」

また殴られた。

「ウッ!?」
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