青春を取り戻せ!
「我々を舐めんじゃないぞ」

僕はうつむきながらも、交差する人々の間から優紀を見つめていた。

彼女はハンドバックとボンの鎖を離した。

ボンはシッポを振りながら僕に向かって来た。

例の指輪は昨晩、リングを捨て、ダイヤだけをキャンディーの包みにくるみ、キャンディー・ボックスに入れてある。それも床の上に散らばっていた。

優紀は慌てて、広がったカラフルな落とし物をバックに押し込みはじめた。

ボンは僕のまわりを飛び跳ねはじめた。

優紀がバックに全てをしまい終えた。

「おかしいな!」僕はもう一度叫んだ。

…これは白木の実印の入った手提げ金庫の鍵を盗むときに、電話で使った暗号だ。“危険が迫ってる逃げろ”という意味だ。

(何度も何度も練習したじゃないか。思い出してくれ!)

「おい、いい加減にしろ」

と、ハンチングの抑えた怒声が聞こえ、ほぼ同時に首のつけ根に痛みが走った。

僕は優紀のてまえ、何でもないという顔で堪えた。…彼女の性格からして、僕の苦痛を黙って見ていられないと思えたからだ。

優紀はやっと暗号を理解してくれたようで、悲しい視線を投げると、コーナーに姿を消した。

僕は飛び出してきた子供を寸前で回避できたドライバーのような安堵を覚えた。

次には再び、震えがくるような、苦しかった刑務所時代が走馬燈のように蘇った。

背中に、次の瞬間、激痛が生まれ、
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