青春を取り戻せ!
胸腺は思春期を過ぎると突然、機能が低下する。
10代前半の胸腺細胞の密度を1とすると、40代には半分ほどに、60代では1/4、80歳になるとほとんどが脂肪に置き換えられて痕跡程度になってしまう。
そして自分の細胞を理解できなくなったリンパ球や白血球が年と共に増加し、白血球の中のキラーTセルなどが、まるで神の意思をまっとうするかのごとくに、少しづつ自分の細胞を破壊していくのである。
肝臓は穴だらけになり、やがては肝硬変になる。血管ももろくなり、骨はまるで古くなった鉄筋コンクリートのようにひび割れを起こしてまばらになっていく。
僕は胸腺の衰退は神の意思ではなく、何らかのホルモンの作用に拠ると考え、そのホルモンの発見に努めた。
まず各年代のラットの胸腺を分析して、未知のホルモンを探す作業に入った。
3ヶ月が過ぎたが、発見されたのは既存の作用のわかっているホルモンだけで、胸腺老化ホルモンなる物は見付からなかった。
僕は壁の前にどうすることもできずに立ち止まる、東ドイツの国民のような心境に陥り、ジレンマを感じていた。
中央のテーブルに無造作に置いてある科学雑誌を手に取った。
虚ろな目に飛び込んできたものは、アメリカの植物学者の論文だった。バラ科の植物を専門に研究している博士で、バラのがく片からスーパー・オキサイド・ディスムターを発見したと書いてあった。訳すと酸化防止酵素である。
目から電流が発生し、脳を直撃した。
今この瞬間にスランプから脱出したのだ。
…東ドイツの国民が壁を乗り越える日が早く来ることを祈れるほど、心に余裕が生じた。