青春を取り戻せ!
ボンは前足を舗装された道路に食い込ませるように踏ん張って、ダイナミックに走っている。
しかし5mぐらいに近付いていた距離は、少しづつ離れていった。

ボンの必死の姿を見つめながら、

『帰りなさい。すぐ戻るから』

と、心の中で言い続けた。

淡青緑色の大谷石の塀の先を、右に直角に曲がった。
ボンの姿が見えなくなった。

『もういいから、付いてくるんじゃないよ!』

と、念じながらリア・ウインドを覗いた。

白い体が閃光のように現れた。

『バカ!お願いだから、……』

しかしボンは、体中の筋肉を躍動させ、懸命に車を捕らえようと追って来た。

車は石塀の連なる道を左に曲がった。
つづけて右に急カーブを切った。

ボンは精悍に耳を立て、少し後ろにしっかりつづいてきた。

公園が見えた。
ここまではボンとの散歩コースだった。
この先は未知の世界だ。
公園を抜けると通行量の多い道と交差していた。
ここまででボンは見送りを終わりにするだろうと思った。 

いや!?終わりにしてくれ!

我々は公園の先の信号につかまった。

公園から出て来た子供が、弾丸のように向って来るボンの必死の形相を見て、母親の腰に顔を埋めて泣いた。
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