右隣の彼
「びっくりした?こんな季節外れの桜・・・」
「うん・・・びっくりした。だって・・・11月だよ・・・・」
私は後ろで立っている岸田君を見た。
岸田君はパンツのポケット手を突っ込んで身体を前後に揺らしながら
ちょっとだけ誇らしげな笑みを浮かべていた。
「実は・・・季節外れでもなんでもなくて、十月桜って言う桜なんですよ」
「十月桜?」
初めて聞く名前だった。
岸田君はゆっくりと桜の木に近づき私と並ぶように桜を見上げた。
「染井吉野と違って華やかさはないんだけどね、こうやってまばらに咲くんだよね。
だから開花期間は長いって兄貴が言ってた」
「お兄さん?」
「ここの公園を最初に見つけたのは兄貴なんだ」
「そうなんだ・・・」
岸田くんってよっぽどお兄さんが好きなんだと思ったがその話には
続きがあった。
「兄貴さ・・・ここで義姉さんにプロポーズしたんだよね」
「プロポーズって・・・えええ!お兄さん結婚されてんの?」
正直お兄さんに生活感があまり感じられなかったからてっきり独身かと思った。
岸田君と似ているだけあってかなりもてるとは思ってたけど・・・
「兄貴が結婚しててショックでした?」
私は首を左右にぶんぶん振った。

でもショックだったのかもしれない。
それはお兄さんに奥さんがいるとかじゃない・・・
結婚そのものにやたら敏感になっているせいだと思う。
お兄さんじゃなくても別の知り合いが結婚するとかって聞いたら
きっと同じ反応をしただろう。

「岸田君もこの桜がー」
「好きです」
目を細め桜の花びらに触れる岸田君の姿と
言葉になぜか私はドキッとした。
桜が好きって言っているのに何私はドキッとしているの?
胸の辺りにきゅ~~っと痛みが走る。
しかもこのきゅ~~はかなり久しぶりだ・・・って思ってる場合じゃない!
ここは訂正するところよ!
だってそもそも桜が好きだって言ってんのに・・・
なドキッとしてんのよ!バカみたい。
彼女もいるのに・・・
頭の中の思考を全て消したくなった。

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