二重螺旋の夏の夜
角を曲がるとすぐバス停が見え、そしてその30メートルほど先に、遠ざかっていくバスのテールランプが見えた。

嘘だろ…。

全力出したぞ、おい…。

もはやダメ元で周りを見回すが、タクシーは走っていない。

落ち着け、何か方法があるはずだ。

早くなった呼吸を無理やりおさえようと、息を思いっ切り吸ってから思いっ切り吐く。

やはりタクシーを呼び寄せるべきか。

でもそうなるときっと駅のタクシープールからこちらに来るだろうから、それでは間に合わない。

…もう考えられる手はない。

でもそうしたら桜はどうなる。

こんなとき『ど●でもドア』みたいな近道でもあれば…ん、近道?

自分で考えていてふと気付いた。

標識柱に貼ってあるバスの路線図を見る。

自分が行きたい目的地に対して、バスはたいてい最短距離を走っているわけではない。

学校や病院、役所などのいろいろな施設を回りながら運行しているわけだし、家から遠すぎて利用できない人がいないように、地図上を広く走っている場合が多い。

このバスも例外ではなかった。

この間乗ったときの記憶も総合して考えてみると、信号待ちの時間も含めれば、次の次の停留所には人の足で先回りできるはずだ。

…これを逃したら、本当に終わりだ。

膝に付いていた手を離して下唇を噛む。

そしてまた走りだした。
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