二重螺旋の夏の夜
やがてバスは速度を緩めてゆっくり停車した。

「荷物持とうか?」

「大丈夫です」

「…うん、そっか。先どうぞ」

降車口近くまで歩いてきてから、わたしはすぐ後ろにいる早見さんの方を振り返った。

「早見さん、ありがとうございます」

伝わっているだろうか。

気にかけてくれて、話を聞いてくれて、背中を押してくれたことが、どれだけ嬉しかったか。

どれだけ救われたか。

この言葉以上の感謝の気持ちが、ちゃんと伝わっているだろうか。

わたしが見上げると、早見さんは何も言わない代わりにわたしの頭――に伸びかけた手を一度ためらって、肩にぽん、と手をのせて微笑んだ。

そこから温かさが全身に広がっていくような、そんな感覚に陥った。

心からの笑顔を早見さんに向けてから、わたしはバスを降りた。
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