二重螺旋の夏の夜
雅基の車が駅のロータリーから出て行くのを見届けて、わたしは荷物を持った。

ボストンバッグとトートバッグを一つずつ。

これだけの荷物で約4ヶ月を過ごしてきたなんて、自分で自分をすごいなと思ってしまった。

…さて、もう行こう。

新しく始めるために。

歩き出そうとして、ふと視線を感じた。

振り向くと、少し離れたところに早見さんが立っていた。



「これからどうするの?」

顔が見えるくらいの距離に近づいてくると、早見さんは優しい声で問いかけてきた。

「ひとまず実家に帰ります。それからすぐに部屋を借りて、来週にはまた戻ります」

「そっか。今すごく、すっきりした顔してるよ」

「はい。罪悪感もあるんですけど、お互いのためにこれで良かったんだと、素直にそう思います」

「よかったね、神崎ちゃん」

わたしは、たくさん助けてもらったあのくまのぬいぐるみをポケットから取り出して、顔が早見さんの方を向くようにして胸の前で持った。

「早見さんのおかげです。本当にありがとうございます」

そして改めてお礼を言うと、早見さんは急に黙り込んでしまった。

「…どうしたんですか?」

「えーっと、あー、ごめん。我慢できなくなりそうだった…」

困惑したように額に手を当てている。

いつも落ち着いている早見さんのこんな姿、初めて見た。

何かまずいことでもしてしまっただろうか…。

わたしが険しい表情をしてしまっていたのか、早見さんは、はっと気付いて口を開いた。

「いや違うんだ、これは俺の問題…かな、多分。とにかくここで言うのは卑怯だって思うから、まだ言わないでおくね。困らせたくもないし」

どういうことだろうか。

「…何がですか?」

不思議に思ってそう尋ねた。

「んー?俺も頑張らなきゃなーと思って」

すると早見さんは、いつかのようにわたしの眉間を人差し指で小突いて、優しく笑った。










fin
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