お姫様の召使の言いなり
「千颯ならそう言ってくれると思った」



なにをいうんだ。



最初からそれだけを狙っていた癖に。



「そうだ。ここに来るときに蕾がやっていたあれって、やっぱり魔法かなんか?」



「あれって?」



「魔法陣みたいの描いてたじゃん。トイレの壁に」



なんであえてあの場所にしたのかは不明だけど。



あの青白い光はどう考えてもマジックの類いではない。



そんなものじゃ説明がつかない。



「ああ、あれか」



「うん、それ。魔法なの?」



「魔法というか、交通手段」



さも常識のように答える。



「魔法使わないと行けない国ってどんな国だよ」


ああ、メルヘン王国か。


そうだよね。



だってメルヘンだもんね。



そりゃそうだ。



「で?契約解除の方法は?」



「あ、覚えてたんだ」



さてはぼくが言わなかったらはぐらかす気だったな。



「わかってるって。ちゃんと言う。さっきのも契約だし」



冷たい風が吹いた。



庭のバラがなびき、蕾の黒髪もすくわれる。



「ここじゃ少し冷える。中に入ろう」



蕾の提案に素直に頷いた。



そういえばお姫様は何をしているんだろう。



ぼくが蕾と話していた間、彼女はずっと一人でいたのかな。



たぶん一人だったんだろう。



いつまでたっても来ない王子を求めるくらいだ。


さびしくてたまらなかったんだろう。



そうおもえば、わがままな彼女のことも憎めない。



むしろ置き去りにして一人にさせてしまったことに後悔した。



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