矢野さん
「あ、いや!何でもない!じゃあ、俺帰るよ」


 慌ててそういうと、矢野も軽く頭を下げてお礼を言ってきた。

「わざわざありがとうございました。おやすみなさい」


「あー。じゃあ、おやすみ」


 矢野に軽く手を上げ応えると、家路の方向へ足を向けた。


「橘さん」

 
 歩き出そうとしたその時、矢野に呼び止められ思わず振り返る。


「気をつけて帰ってくださいね」

 
 優しく微笑んでいる矢野に目が奪われたのと同時に鼓動がドキン!と跳ねた。


「あ……ああ」


 そういうと、足早にその場を去った。早く鳴る鼓動と共に。

 
 マジかよ……。嘘だろ……。


 自分の体なのに、自分のじゃない気がする。体と頭の中がチグハグだ。


 違う違う!勘違いだ!


 頭でそう思っても、心臓はまだ早い鼓動を打ち、締め付ける。苦しさも覚える。


 俺はーー


 矢野が好きーー?


 そう思った瞬間、体中が熱くなる。気持ちと体が繋がった気がした。


 やべぇ……マジかよ!


 自分の気持ちに気づくと恥ずかしさから走って家路へ急いだ。
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