矢野さん
 ドスッ!!

「――っ!!」

 鈍い音と共に肩に鋭い痛みが走る。

「橘さん?!」

 俺の腕の中から矢野の声がする。

 ああ……俺……矢野を庇ったのか……。

 咄嗟に矢野を抱き締めるように男から庇ったみたいだ……体が勝手に動いて覚えてねーや……。

 激痛からか冷や汗が噴き出してくる。

「橘さん?!大丈夫ですか?!」

 まじ……痛ぇ……

 徐々に呼吸も荒くなり立っていられず、矢野を抱き締めたまま崩れ落ちる様に倒れた。

「橘さん!!」

 あぁ……俺死ぬのかな……?

 まじで今日……残業やってれば……良かった……。最後に抱きしめたのが……矢野か……。

 あ……やべ……。

エロDVDの《女子高生とニャンニャンするにゃん》……明日…返却日だ……。

 俺の……性癖が……まさか……死ぬ事で……ばれるとは……。

ほんと……ついてねぇー……

「橘さん!!橘さん!!」






 意識を手離す直前に聞こえてきたのは――


 泣きながら俺の名前を呼ぶ矢野の声だった。

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