電車物語‐名古屋行き‐
今我が家の風呂場で点いている電気は
見慣れていた温かな灯りではなく
白く冷たい白電球だ
宏香が使うはずない明るすぎる灯りは
隆也を拒絶しているように見えた
(誰が…入ってるんだ?)
そっと風呂場に近付く
と、そのとき
「ちょっと!白電球で入らないでって何度言ったらわかるの?!」
びくっ
宏香の声が大きく響いた
(はは…俺に言ったわけじゃないのに…)
隆也の心臓はどきどきと鳴る
「あぁ、ごめんごめん!またやっちった」
「こないだ佐藤さんに『珍しく白電球使ってましたね、誰かきてたんですか?』って
詮索されて大変だったのよ?説明しても信じてくれないし…
変な噂たてられたら収拾つかないからやめてよね!!」
どきん………
隆也は自分の鼓動が速くなるのを感じた
宏香が怒っている相手は紛れもなく男だ
そしてそいつは何度となくこの家に上がり、
風呂まで入っているのだ
つまり……
(宏香…お前‥‥)
隆也は瞬時にすべてをのみこんだ
そして静かに…
最寄り駅への道を歩いていった
紙袋だけを玄関に残して――
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