雨風ささやく丘で
午後12時10分。


「ああ、大島さん今日もまた石園先輩に火付けちゃったわよねぇ」
同期の仕事仲間である結子(ゆうこ)は、弁当の食べ物を箸でいじくって呟いた。
「だってかなりのミスがあったんだから。仕方ないよ」
私は石園のお説教シーンを思い出し、大島のことを気の毒に思った。
「石園先輩昔は優しかったのに。180度鬼へと丸変わり!好きだったのになぁ、残念」
結子はやれやれと溜息を吐くとやっと箸を口に運んだ。
「そうね」
結子の背後の遠くに目がふと行くと、そこには大島が一人で昼ごはんを食べていた。今日の説教で自尊心をなくしてしまったのか背中は丸まっていて、顔も俯いている。あそこから負のオーラを感じる。
自分が叱られていないのはよいとして、他人とは言えども心が少し痛む。


「ねぇ、夏希は雄人(ゆうと)と別れて悲しくないの?」
結子は突然思い出したように質問をした。
一体何度聞けば気が済むのだろうか。この話は前にももうなしと言ったはずだった。再び結子の探偵ごっこが始まる。
「仕方ないのよ。私は浮気された方なんだからね。結子、この話はもうなしって言ったでしょ?」
私は頬を膨らませて、睨んで言った。
「あんなにかっこよくて気遣いも出来る優しい彼だったのに。好きっぷりからみて浮気は考えられないんだけど…私は浮気だってどうしても納得いかないのよね」
結子は息を吐いて口をへの字に結んだ。
「だって浮気現場見た時は確かに見たのよ、そのアイテを。私は見てるんだから!」
「何をしてたの?」
そして結子は何度も聞いたはずの同じ質問をし、興味津々と体を前に乗り出す。
「デートの待ち合わせ場所だっていうのに、雄人の横に平然といて手繋いでたのよ。その女私のことに気づいた途端、どっかに消えたから顔は見えなかったけど。結構若かったように見えた。高校生ぐらいかな」
私はその時のことを思い出して答えた。
人混みの中雄人は携帯を片手に誰かと喋っていて、確かに女は雄人の手を握っていた。
「むー…。ってことは彼女夏希のこと知ってる人だって有り得るよね。顔が認識出来て逃げたってことは」
「多分…。雄人にあの子誰??って聞いたら本気で知らないって顔で否定したけど、とても信じられなくて」
「結局は迷宮入りね」
結子はやえやれと両手をあげてそう言った。
解決にたどり着かない探偵ごっこはほんとに止めて欲しい。
「結子、私その話忘れようとしてるんだから。協力してよ」
「はいはい、今日はここらへんにしとく」
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