つなぐ理由

「君、飲み会の後はいつも真っ赤で酔ってるように見えたからそれにかこつけて、酔ってるなら手を繋いで歩いたほうが危なくないだろとか自分の中で言い訳して、断りもなく手を繋いだりした。でも戸田さん、酔ってたわけじゃないんだよな」

「……ごめんなさい」
「謝られると、俺の方こそごめんなさい、だな」


いつも職場では素っ気なくてクールな人なのかな、と思っていたのに。先輩は恥ずかしそうに謝ってくる。


「あの晩、平気な顔して戸田さんの手を引いて歩きながらほんとはすごいどきどきしてた。戸田さんの手がすごくやわらかくてすごくちいさくって、壊れ物みたいだったから」



先輩はあの日から、ずっとわたしのことが気になっていたと言う。



「そんなつもりがない戸田さんにとっては迷惑な話だろうけど、職場でも飲み会の帰り道でも勝手にひとりで君のこと意識しまくってた。だから正直参ってたよ。君が無邪気に話しかけてくるたびに、冷静じゃいられなくて。だからいきなりで悪いけど、困るようだったらはっきり言って。もう君の手に、勝手に触れたりしないから」




わたしは先輩にもっと触れて欲しい。


先輩に手を繋いで欲しい。




でもそれを言うにはまだ勇気が足らない。わたしのことをどう思ってくれているのか、もうすこし先輩の口から聞きたかった。けどそれも怖くてうまく言葉が出てこない。


「ごめん。本当に困らせるつもりはなかったんだ」
「ち、ちが……わたし、困らないですっ。……でもその、わたし。全然かわいくないですよ……?」

「戸田さんはかわいいよ」


わたしに話しかけながらすこし照れたような顔をしていたのに、「かわいい」の言葉だけは真顔ではっきりと言う。アルコールではないなにかがわたしの内側で火が付いたように熱くなっていく。


「せ、先輩っ。さっき免疫がどうとかって言ってましたけど、私の方こそ、免疫ないんです……」


まだお付き合いをしたことなんて一度もないのだ。だから「かわいい」だなんて冗談でも軽々しく言わないでくださいとお願いすると、上杉先輩は子供っぽく唇を尖らせて「軽々しくなんて言ってないだろ」とちょっと怒った顔をする。


「……戸田さん、誰に言われたわけでもないのに、いつも先に退社するときは周りに『何か自分にお手伝い出来ることありますか?』って訊いてから帰るだろ?そういう周りに気遣い出来るとこいいなって思うし、共有スペースの整頓いつもやっておいてくれるし、あと変な顔のひつじの付箋使ってるとこもかわいいなって思うし」

「あ、あれはひつじじゃなくてアルパカです……!」


ぷっと先輩が吹き出す。


「そういう変なこだわりあるとことか、ほんとにかわいいよ。だから何食わぬ顔して君と手を繋いだり、紳士的なフリして家まで送ることが出来なくなってきたんだ」



つまり俺は君が好きなんだ。



素っ気なく言われる。でもそれが先輩がクールだからなんじゃなくて、照れているからなんだと今はわかるから。勇気を振り絞って、先輩に触れてもらうためだけにお手入れしていた手を差し出す。


先輩は暗い夜道でもわかるくらい顔を赤くさせると、ぎこちない仕草でそっとわたしの手を取ってくれた。それから手を繋いでアパートまで歩く途中、わたしはうまれて初めてキスをした。



わたしも先輩が好きです。



そう伝えると好きな人から与えられる最高にしあわせなキスを、もういちど味わうことになった。







《end》




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