屋形船、ゆるりゆるりと。
「その鯉、わしの曾祖父だわ」


「本当ですか? ツツジと結婚なさったのですか?」


キツネ面は横に首をふりました。

「いや、人間の娘と結ばれてな」


キツネ面は腰巾着から皺くちゃの紙を取り出しました。
紙を伸ばして、広げて、叩いて、薄皮を剥ぐように開いていくと、畳一畳ほどになりました。


そこには立派な鯉の魚拓がありました。


「助けてもらった礼だわな、コレやる」


なんてことでしょう、なんてことでしょう・・・
私は独り言が出ていました。

「こんな立派な鯉さんでしたか、なんてことでしょう」


これであの方に土産が出来ました。


「ゲリラシャボン玉から救ってもらったお礼だわ」


キツネ面はことりと湯呑みを置くと、屋形船の甲板に出ました。

キツネ面が手を広げると、岸の竹が伸びてきました。

「世話になったな、お嬢さん」



キツネ面が節に捕まると竹はするすると縮み始め、竹林の中の赤い鳥居に吸い込まれて、ほわりと消えました。
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