生きなきゃいけない

「ちょっと待て。腕見せてみろ。」
「え?」
 目ざとい兄に見つからないわけがなかった。真っ白な左腕にうっすらと浮き出た数本の青い筋。そして、数枚を貼り合わせたバンソーコーは黒く染まっている。
「お前、いつの間に!」
 その先は言葉を続けず彼女をリビングのソファに強引に座らせた。足音で怒りが伝わってくる。ほどなくして兄は救急箱を持ってきた。彼女の左腕を伸ばさせ、ティッシュを片手にゆっくりとバンソーコーをはがしてゆく。かろうじて止まっていると言えよう。しかし、ちょっとした衝撃で再び出血するのは目に見えていた。彼は無言で消毒しガーゼを厚めにあてた。
「ちょっとお兄ちゃん、大袈裟だよ。」
 兄は無言のままだった。どれくらい深いかわからない。彼女が切るのは決まってこの血管の上だった。表面の傷は比較的早くとじるが、中は開きやすいようで、ひとたび切ればかなり刃が入っていくのもわかっていた。手早く包帯を巻いた。
「よし。飯くうぞ。」
「ちょっと、やだ、包帯なんて。学校でみんなから見られるじゃん!」
「そうしたのは、お前だろ。」
 低い声に、彼女は黙って食事を始めた。
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