ショコラノアール~運命の恋~
協会に用意された、ビジネスホテルで宿泊した私は、

『ゆっくり東京で遊んでおいで』と、言われていたのに、

昨日の今日でそう言う気持ちにもなれず、

帰途に着いた。

新幹線で帰ればすぐなのに、

のんびりと考えたくて、普通列車に乗っていた。

平日の昼間、中途半端な時間の下り線は、人もまばらで、

4人がけのイスは独り占めだった。


車窓を流れる風景は、

ここ2~3年でだいぶ変わってきた。

通り過ぎる駅は以前と比べると随分きれいになった。

都内までの乗り入れだった電車が、主要駅を通り、

さらに東海道線まで繋がったせいだろうか、

距離は遠いものの、通勤に電車を使う人が随分増えたという。


沿線ののどかな田園風景は、少しずつ切り売りされ分譲住宅へと変わりつつある。


みんな変わっていく。


ねえ、私は変われてる?

なお君に別れを告げ、

家族からも離れて、

一人になって、仕事だけに集中した。


がんばったよ。

頑張れてたって思ってた。



夏尾店長に認められたって思ってたけど、


結局あの中で最下位だった。

浴びせられあの人の言葉、


『あの人の弟子だって言うから期待してたけど、

大したことないねえ。

何あの地味でダサいケーキ。

よく恥ずかしくなくこんなとこに来たよね?』



私は何にも答えられなかった。

店長の庇護のもとのんびり甘えていただけだったのだ。

結果はもう店長のもとに届いているだろう。

がっかりしてるかな。

あたりまえって思ってるかな。


『君の作品、地味だったけど、

 仕事が丁寧で好感のもてる一品だったね』

芳賀さんが言ってくれた。

その言葉が精一杯の褒められるところなのだろう。



私はあのケーキが今の私のすべてだって思ってた。

所詮私の自己満ケーキってことだ。



さっきから雨電車に容赦なく叩きつけていた。

まるで今の私を責めるように。








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