オトナの女


「ええ!?今何て言った!?」

そう言って、目の前の島田先輩はお腹を抱えて笑い出す。

「そ、そんなに、笑わないで下さい……」

彼は、高田先輩と同期で、デスクもお隣同士。二人はコンビ芸人のように息が合うし、仲も良い。そんな、島田先輩なら何かヒントを貰えるんじゃないかと、こっそりデスクに訪れたんだけど……。

「ごめんごめん。だって、篠崎ちゃん、第一声が『高田先輩ってゲイですか?』なんだもん。誰だって笑うでしょ?」

そして、また目に涙を浮かべながら、島田先輩はヒーヒーと笑う。

そんなに笑われるなんて。
途端に顔がボッと熱くなる。私って、そんな変な事言ったのかな?

でも、そうとしか今の私には、答えが思い浮かばない。いや、寧ろそうだとしたら、自分を納得させる事ができるのに……。

私は俯き、キュッと手に力を込める。

「不安、何です。先輩は無理して付き合ってくれてるんじゃないかって……自信がないんです」

思わず漏れてしまった本音。

島田先輩は、急に静かになり脚を組むと、私をじっと見つめて言った。

「何故そう思う?」

「え!?そ、それは……」

抱いてくれないなんて、恥ずかし過ぎて言えやしない。言いどもっている私に、頬杖をつきながら、彼は更に言葉を続ける。

「俺は、大切にしてると思うけどな。片っ端から女を抱いてたアイツがさ、今じゃ、言い寄ってくる女全部断ってる。それは、篠崎ちゃんがどれだけ高田にとって特別な存在なのか、考えたりしない?」

「確かに、先輩は優しいです。でも、時々……先輩に抱かれた人達を羨ましく思ってしまうんです……。彼女達でも手にいれる事が出来なかった唇を、私は手にいれた。それだけでも、幸せなんですけど……そう思う私は欲張りですか……?」

少しづつ漏れていく本音は、やがて、核心へと近づいていく。ずっと悩んでいた、小さな秘密に。

「ああ、そういう事か。いや、女としては普通なんじゃないかな?女だって男だって本能はそうだろ?理性があるから、衝動的になる事を制御出来ているだけで。だから、そう感じるのは変な事じゃないさ、好きな相手なら尚更ね」

「そう……ですか」

島田先輩の言っている事は、すぐにわかった。
恋人同士なら、求めあうのは普通の事。
でも、それなら尚更、先輩から求められない私は……。

そう思うと熱い涙が、頬を伝った。

「篠崎ちゃん、難しく考えすぎなんじゃない?もっと小さな事から始めればいいんだよ、例えば……その先輩って言うのをやめるとか。それから髪型を変えてみるとか、香水をつけてみるとかね。ちょっとした変化でも、いつもと違ければ気付くはずだよ?男って」

まるで頑張れと言うように、私の肩をポンと叩くと、島田先輩は軽快に席をはずした。


そうだ、少しづつ変えてみよう。

私らしく、ぶつかってみればいいんだ。

重かった肩の荷が、少し軽くなった気がした。






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