あの夏のキミへ
わたしは伊勢崎さんに連れられて蓮の病室へとむかった。

ここまで夢中で走ってきたのはいいものの、いざ病室にむかっていると思うと足が重い。

「...ここよ。」

わたしは気づいたらすでに病室の前に立っていた。

ネームプレートにはしっかりと水野蓮という文字が刻まれていて、ああ、やっぱりホントなんだねって改めて落胆した。

「じゃ、ちゃんと話せるといいわね。」

伊勢崎さんはそう言い残してナースステーションへと戻っていった。

...この白くて薄いドアの向こうに蓮がいるのか。

どうする...

ガラっ

「へ...」

「ひっ...光...」

「れ...ん」

わたしが悩んでいるうちに開けられたドア。

そしてそこにはまぎれもなく薄青い病院服を着た蓮が立っている。

神様...どうしてこうも唐突なの...?

「よぉ...久しぶり。」

あまりにも突然の再開でわたしの頭はついていけていない。

っていうか、どうしてそんな平然としてられるの?

「いまから屋上行くけど...ちょっと話さねぇ?」

「えっ、あ...う、うん...」

返事はしたものの、わたしは立ち尽くすしかできなかった。

でも蓮はそんなわたしの手をこの前と同じようにやさしく包み込み、屋上へ連れてってくれた。

屋上に行くまでは誰とも会わなかった。

診察室周辺の人混みとは大違いだ。

ぴかぴかに磨かれた白い廊下はわたしたちの姿を映し、ただわたしたちの足音が響くだけ。

まるで、この世界にわたしと蓮しかいないかのようで少し緊張した。

階段をのぼる時も、今こうやって廊下を歩いてる時も、一言も話さない蓮。

わたしの手を少しばかり強引に引っ張って歩いていてどんな表情をしているかは見えない。

きっと怒ってるんだよね...。
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