あの夏のキミへ
屋上は少し風が吹いていた。

いつの間にか雨はあがり、雲と雲の間から太陽が顔を出している。

蓮は話があると言っておきながら一言も話そうとしない。

「あ...の...ごっ、ごめんなさいっ」

先に口が動いたのはわたしだった。

「っ...」

蓮ははっとしたように振り向いた。

「だってわたし...蓮の気持ちを知らないで、死にたいだのなんだの言って...「聞いたんだ、全部。」

「う...」

なんて言えばいいかわからなかった。

というか、言えなかった。

「...病気がわかったのはちょうど高校に入学する直前だった。余命もわかっているのに治療づけの毎日で、俺は絶望の中にいた。海に行ったのは外出許可が出た日でね...。」

「...」

「そしたらそこで偶然にも光が自殺をするところに遭遇した。病気がわかって絶望のさなかにいた俺に雷が落ちたような衝撃だった。なんで生きたい人が生きれなくて生きたくない人が生きれるんだって悔しくて仕方がなかった。でもそんな考えとは裏腹に、体が勝手に動いて光を助けてた...」

「...っ」

「外出許可が出る前の日、廊下で看護師さんたちが話してるのを聞いたんだ。もう長くないから元気ないまのうちに外出させてやろうって...」

蓮は徐々に涙声になっていく。

地面は蓮がこぼしたきれいな涙で濡れていく。

わたしはとりとめのない気持ちになって顔を上げられなかった。

「俺ってなんで生きてるんだろって、ずっと...思ってた...」

するとゴクリと唾を飲み込む音が聞こえ、蓮は言った。

「もしかすると、光には生きてほしいって思っていたのかもしれない。俺が生きられない未来を、光に生きてほしかった...。」
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