チェリーな彼女
さくらんぼクリームのロールケーキは、甘酸っぱい春の香り。
暖かな陽が差し込むワンルームマンションの1室で、わたしは真っ白な皿に乗せたケーキを、テーブルにそっと置いた。
「わたしの実家の庭で採れたさくらんぼが入ってるの」
今朝収穫したばかりなのよ、と言うと、彼は驚いた。
「きみの実家、さくらんぼの木があるの」
「わたしが生まれた記念に植えたんだって。もうずいぶん大きいのよ。実がつくと、鳥に警戒しなくちゃいけなくて大変だけど、この時期が楽しみなの」

今朝、母に呼ばれて実家に帰ると、母がボウルを手にして玄関に立っていた。
『おかえり、待ってたのよ。今年も一緒に取りましょう』
庭に出ると、わたしの背丈よりも高いさくらんぼの木の、茂る葉の隙間から、小さくかわいい実が顔を出していた。
『たくさんできたね』
真っ赤に色づいた艶やかな実は、わたしの手の中で弾むように重なり合い、ボウルにはあっという間に鮮やかなさくらんぼの山ができた。
取り終わると、わたしは半分でいいと言ったのに、母が、
『今年はまだ収穫できそうだから』
と、まだ熟していないさくらんぼが残る木を見上げて、今日収穫した実を全部わたしに持たせてくれた。
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