チェリーな彼女
「それで、ケーキを作ってくれたんだね」
甘いものに目がない彼は、うれしそうだった。
「せっかくはじめて来てくれるんだもの、張り切っちゃった」
クリームにさくらんぼの果汁と果肉を混ぜ、スポンジの生地にも果肉を混ぜ込んだ。でもクリームもスポンジも、期待したより色が出なくて、見た目はどこにでもあるふつうのロールケーキになってしまった。あえて特徴をさがすとすれば、ところどころに散らばる赤い皮の色味くらい。味見をしたときに口いっぱいに広がった甘酸っぱい香りは限りなく爽やかで、味はまあまあだと思うけれど、そんな見た目がちょっと不満だった。
「もっと淡いピンクになるかと思ったのに」
彼にフォークを手渡しながらぼやくと、彼は小さく笑って、
「アメリカンチェリーならともかく、日本のさくらんぼって、皮は赤いけど実は黄色いし、こんなものだよ」
とやさしく笑ってくれた。

そろそろ西日が差す時刻で、窓の外は空が赤く染まりつつある。
ちょっと遅いおやつになってしまったけれど、その分、夕食の時間を遅くすれば、彼が帰る時間も遅くなる。少しでも長く、一緒にいられる。実はそれを狙ってこの時間に出したことは、彼には内緒。
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