チェリーな彼女
はじめて来た、記念日。
わたしの家に、はじめて来た、記念日。

わたしは心の中で、何度もその言葉を繰り返した。繰り返すほどに、そのひとつひとつの単語が、やさしく柔らかく、胸に響く。
今わたしの前に置かれた長細い箱は、彼が今日という記念日を思って、買いに行ってくれたもの。ふだん女性客で賑わうこの店に、どんな顔で入って行ったのか。入るのに、どれだけ勇気を振り絞ったか。それを想像するだけで、心が温かくなった。

「ありがとう。開けていい?」
「もちろん。でもちょっと……」
言葉を途切らせた彼は、様子を窺うように上目遣いでわたしを見た。
「ちょっと?」
わたしが続きを促すと、彼は視線を下げて、テーブルの箱を見ながら言った。
「かぶっちゃったんだけど」
「かぶった?」
なんのことやら、わからない。かぶるもなにも、今ここには、ロールケーキと紅茶しかないというのに。
彼はそれ以上言葉を続けなかったから、わたしはよくわからないまま、包みをほどいた。
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